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アップセルとは?コールセンターで顧客単価を最大化する方法



コールセンターは、単なる顧客対応の窓口ではなく、売上拡大の重要な拠点として注目されています。
中でも「アップセル」は、既存顧客への提案によって顧客単価を上げ、企業の収益を伸ばす効果的な営業手法です。
新規顧客の獲得には時間とコストがかかる一方、既存顧客へのアップセルは比較的低コストで売上増につながります。
本記事では、コールセンターにおけるアップセルの基本、ダウンセル・クロスセルとの違い、そしてアップセルが持つ重要性を詳しく解説します。
コールセンターのアップセルとは?

まずはコールセンターのアップセルとは何を指すのかについてご紹介します。
アップセルとは?
アップセルとは、既存顧客に現在利用している商品やサービスよりも上位プランや高価格帯の商品を提案し、顧客単価を引き上げる営業手法です。 代表的なアップセルの事例としては以下のようなケースがあります。
- スマホで「5GBプラン」を利用している顧客に「20GBプラン」への切り替えの提案
- 生命保険加入者に補償額アップや特約追加を案内する
- ソフトウェア利用者にプレミアム版へのアップグレードを提案する
コールセンターでは、受電(インバウンド)や架電(アウトバウンド)の応対中に顧客のニーズを聞き取り、自然な会話の中で上位商品を勧めることが可能です。顧客との信頼関係を築きながら、違和感のないタイミングで提案することが成功のカギとなります。
コールセンターにおけるアップセルとは?
コールセンターでの電話業務は大きくアウトバウンド(発信)とインバウンド(受信)に分かれます。 アウトバウンドとインバウンドは以下のような違いがあります。
・アウトバウンド 企業側から顧客に電話をかけ、新商品紹介や契約更新、アップグレード提案を行う営業スタイル
・インバウンド 顧客からの問い合わせやサポート依頼に対応し、会話の中で上位プランを提案するスタイル
アップセルはどちらでも可能ですが、特にアウトバウンド型の電話業務で積極的に行われるケースが多いです。キャンペーン案内や更新時期の連絡と合わせてアップセルを提案すれば、顧客への付加価値を示しながら自然に売上増を狙えます。
ダウンセル・クロスセルとの違い
アップセルと似たものとして、ダウンセル・クロスセルという概念があります。それぞれの概要や違いについてご紹介します。
ダウンセル
ダウンセルは、顧客が購入や契約を迷った場合に、価格や機能を抑えた下位モデルを提案し、購入自体を逃さないための施策です。顧客が「価格が高い」とためらう場合に有効で、失注防止につながります。
例:「プレミアムコースではなく、まずはライトプランから始めてみませんか?」
クロスセル
クロスセルは、顧客が購入を検討している商品に関連する商品をセットで提案し、購入点数や総売上を増やす方法です。 顧客の利便性を高めながら、売上の幅を広げる施策として用いられます。
例:「スマートフォンをご購入の際に、保護ケースも一緒にいかがですか?」
アップセルとダウンセル・クロスセルの違い
アップセルとダウンセル・クロスセルの違いについてご紹介します。
- アップセル:より高価格・高付加価値の商品へ誘導して客単価を上げる
- ダウンセル:価格を下げてでも契約を確保する
- クロスセル:関連商品を追加提案して総売上を増やす
このように、提案の方向性と目的が異なるため、顧客の状況やニーズに応じて使い分けることが重要です。
アップセルの重要性とは?
近年、インターネットやECサイトの普及により、消費者は無数の選択肢から商品やサービスを選べるようになりました。その結果、競合他社も次々と登場し、顧客を囲い込む難易度が高まっています。
新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持・拡大するコストの約5倍(1:5の法則)かかるともいわれます。そのため、既存顧客のライフタイムバリュー(LTV)を高めることは、企業にとって極めて重要です。
アップセルを通じて顧客1人あたりの売上を増やし、長期的に継続利用してもらうことでLTVを最大化できます。さらに、既存顧客はすでに自社ブランドや商品を信頼しているため、提案を受け入れてもらえる可能性も高く、アップセルは費用対効果が非常に優れた施策といえます。
多くの企業がアップセルやクロスセルに注力するのは、こうした背景があるからです。コールセンターは顧客接点の中心にあるため、適切な分析とスクリプト設計、オペレーター教育を組み合わせることで、アップセルの効果を最大限に引き出せます。
アップセルは、新規顧客開拓よりも低コストで売上を拡大し、顧客との信頼関係を深めながらLTVを向上させる重要な施策です。コールセンターでのアップセル成功には、顧客データ分析やトークスクリプトの工夫、そしてオペレーター教育の徹底が欠かせません。既存顧客との会話を売上拡大のチャンスに変えるために、アップセルの仕組みづくりを今こそ強化しましょう。
コールセンターでアップセルを行うメリット・デメリット

コールセンターは顧客と直接コミュニケーションを取る重要な拠点です。その特性を活かしてアップセルを実施すれば、売上拡大だけでなく顧客との関係強化にもつながります。ただし、手法やタイミングを誤ると逆効果になるリスクもあります。ここでは、メリットとデメリットをそれぞれ詳しく解説します。
コールセンターでアップセルを行うメリット
コールセンターでアップセルを行うメリットとしては以下があります。
効率的に顧客単価を向上させられる
アップセルの最大の魅力は、新規顧客を獲得するよりも低コストで売上を増やせる点にあります。
既存顧客はすでにサービス内容やブランド価値を理解しているため、提案に対する心理的ハードルが低く、成功率が高い傾向があります。
そのため、新規獲得に比べてCPA(顧客獲得単価)を抑えつつ売上を伸ばせるのが大きな利点です。 1件あたりの受注単価が上がれば、オペレーター1人あたりの売上生産性も向上し、限られたリソースでより高い利益を生み出せます。
たとえば、月額5,000円のプランから7,000円の上位プランへ移行してもらえれば、顧客数を増やさなくても売上を拡大でき、収益体質の改善につながります。
顧客満足度の向上
アップセルは単なる売上拡大の手法ではなく、顧客の本当のニーズに応える手段でもあります。顧客の利用状況やライフスタイルに合わせて「今よりも便利で安心できるプラン」を提案できれば“提案してもらえてよかった”という好印象を与えられます。
たとえば、家族が増えたタイミングでデータ容量の多いスマホプランを提案したり、保険の補償範囲を広げたりすることは、顧客の利便性や安心を高めるサービス改善にもなります。
このように、顧客がまだ気づいていない潜在ニーズを満たす提案ができれば、顧客満足度(CSAT)や継続利用率の向上にも直結します。
コールセンターでアップセルを行うデメリット
一方で、アップセルには注意すべきリスクもあります。顧客心理を正しく理解しないまま進めると、信頼関係を損なう可能性があるため慎重な対応が必要です。
・強引なアップセルは顧客離れの原因に 無理に上位プランを勧めたり、顧客の都合を無視した提案をしたりすると、押し売りと受け取られ、解約や他社への乗り換えにつながる恐れがあります。
・タイミング・話法・提案内容を誤るリスク アップセルには「提案するタイミング」「顧客に寄り添う話し方」「適切な商品選定」が不可欠です。これらを誤ると、せっかくの提案が不信感を与え、逆効果になりかねません。
・解約防止目的のアップセルは慎重に 顧客が解約を検討している場面でアップセルを提案すると、「引き止められている」と感じて不満を増幅させる場合があります。顧客の背景や感情を理解し、適切な聞き取りやフォローを行った上で提案することが重要です。
・ネガティブな口コミ拡散のリスク 強引な対応で悪印象を与えた場合、SNSや口コミサイトにネガティブな体験談が拡散されるリスクもあります。1件の不満が大きなブランドイメージの低下につながる時代だからこそ、オペレーター教育とガイドライン整備が欠かせません。
コールセンターでのアップセルは、顧客単価向上と顧客満足度アップを同時に狙える有効な施策です。ただし、提案の仕方やタイミングを誤ると、信頼低下やクレーム、ネガティブな口コミ拡散などのリスクも伴います。
顧客データの分析やオペレーターの教育を徹底し、顧客目線に立った“提案型アップセル”を目指してみましょう。
コールセンターでアップセルを実現する8つのコツ

コールセンターでアップセルを成功させるには、単に商品を勧めるだけではなく、顧客理解からチーム体制、ツール活用まで多面的な取り組みが必要です。以下の8つのコツを意識することで、顧客満足度を維持しながら売上を効果的に伸ばせます。
1. 相手の課題を意識して提案内容を考える
アップセルの本質は「商品を売る」ことではなく、顧客の課題を解決することにあります。
通話中に出てくるキーワードや顧客の不満、過去の購入履歴から、潜在的なニーズを読み取りましょう。 たとえば「通信速度が遅い」と話していた顧客には、容量アッププランの提案が有効です。
提案内容は常に顧客目線で設計し、アップセルだけでなく必要に応じてダウンセルやクロスセルも検討します。 「提案してよかった」と顧客に感じてもらえるかどうかが、成功の分かれ道です。
2. 顧客情報の収集・管理を丁寧に行う
最適な提案には、最新かつ正確な顧客データが不可欠です。
購買履歴、利用状況、過去の問い合わせ内容、不満点などを把握しておけば、顧客の状況に応じた提案が可能になります。CRMシステムには通話内容や問い合わせ履歴を即時反映させ、誰が対応してもスムーズな会話ができる状態にしておきましょう。
データが正しく蓄積されていれば、AIレコメンド機能や自動分析ツールも活用でき、提案精度がさらに高まります。
3. アプローチの優先順位を決める
すべての顧客に一律で提案するのではなく、成功確度の高い層から優先的にアプローチします。購入頻度、解約リスク、利用期間などをもとに顧客をスコアリングし、優先顧客を抽出しましょう。
また、契約更新や商品利用が活発なタイミングなど、提案が響きやすい「ベストタイミング」を狙うことも重要です。 優先順位を明確にすれば、オペレーターの稼働を効率よく使え、成約率の向上につながります。
4. 提案の流れをトークスクリプトにまとめる
アップセルを標準化し、誰でも一定の品質で提案できるようにするにはトークスクリプトが不可欠です。「どのステータスの顧客に」「どの商品を」「どのタイミングで」提案するかを明確化しましょう。
提案すべき商品や、提案しないケース、顧客からの質問に対する切り返し例も盛り込んでおくと、オペレーターのスキル差をカバーできます。スクリプトを定期的に見直して改善を重ねることで、現場全体の提案力を底上げできます。
5. スタッフやオペレーターのスキルアップ
スクリプトがあっても、実際の応対力や商品知識が不足していては成果が出ません。
最新の商品知識はもちろん、適切な声のトーンや話し方、想定外の質問に柔軟に対応する力など、基本スキルを磨く研修を定期的に実施しましょう。
商品知識や提案力を高めるためには、ロールプレイを繰り返し行うのが有効です。オペレーターの成長は、顧客満足度と成約率の双方に大きく影響するため、丁寧に行いましょう。
6. アップセルをセンター・全社の戦略に落とし込む
アップセルは個々のオペレーター任せにするのではなく、センター全体の戦略として取り組むことが重要です。スーパーバイザーやリーダーが率先して目標を共有し、KPIをモニタリングしましょう。
また、成果が出たトーク事例を共有したり、月次レポートで成功事例をナレッジ化したりすることで、組織全体のレベルを引き上げられます。全社的な方針に組み込むことで、アップセルは一過性の施策ではなく、継続的な成長ドライバーとなります。
7. 必要に応じてツールの導入を検討する
最新ツールはアップセル成功の強力な味方です。
CTIやCRMを導入すれば、通話中に顧客情報がポップアップ表示され、購買履歴や契約状況を即時確認できます。また、音声認識やAIレコメンド機能を組み合わせれば、顧客の発言内容をリアルタイム分析して最適な提案を自動表示することも可能です。
これにより、オペレーターの判断負荷を減らしつつ、提案の精度を高められます。
8. コールセンターのアウトソーシング・BPOを検討する
アップセルを効果的に行うには、人員・システム・教育体制など多くのリソースが必要です。
自社で十分なリソースを確保できない場合、知見を持つアウトソーシング業者やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを活用するのも有効です。
特にアウトバウンドに強い専門業者に委託すれば、短期間で効率的にアップセル体制を構築できます。費用対効果や顧客体験を総合的に検討し、社内業務とのバランスを取った導入を検討しましょう。
これら8つのコツを体系的に実践すれば、コールセンターでのアップセルは顧客満足度を損なわずに売上を伸ばす強力な施策になります。顧客理解とデータ活用、そして現場のスキルアップを組み合わせ、必要に応じて最新ツールやBPOを取り入れることで、持続的な成長とLTV向上を実現できるでしょう。
まとめ
インターネットやECサイトの普及により、無数の選択肢から商品やサービスを選べるようになった現代において、既存顧客に対して商品やサービスを提案するアップセルの重要性は増しています。
ただ、すでに自社の商品やサービスを利用している顧客にさらに提案を行うのは簡単なことではありません。提案の方法によっては、顧客に不信感を与えてしまい、解約といった最悪のケースにつながる可能性もあります。
顧客に不信感を与えずに上手に提案を行うには、今回ご紹介したアップセルのポイントを実践することが大切です。コールセンターにおけるアップセルにお悩みの方は、ぜひ今回ご紹介した内容を参考にしてみてください。

ProCX編集部
NTTマーケティングアクトProCX
