目次

グッドマンからの手紙 ~日本でCXに携わる方々へ

グッドマンからの手紙 ~日本でCXに携わる方々へ

CX the New

2022.12.16

  • ジョン・グッドマン

グッドマンからの手紙 ~日本でCXに携わる方々へ

米国において40年前から数多くの市場調査によって、顧客のクレーム対応とカスタマーロイヤルティの関係性、クチコミによるマーケティング効果を実証的に分析したことで知られ「グッドマンの法則」と聞けば思い当たる方も多いのではないだろうか。そのグッドマン氏から、日本でCXに携わるみなさまへの貴重なアドバイスをご紹介します。


これからのカスタマーサービスについてお話しすると、もはや顧客からの問合せに対応するだけの部門ではないということです。マーケティング&セールス、デザイン&プロダクション、財務&アドミニストレーションと並び、企業を支える4つ目の柱として位置づけるべき活動だと考えます。

カスタマーサービスを戦略的に捉え直すと、競合他社には簡単に真似のできない真の競争力としてサービスを再定義することであり、当然そのプロセスだけでなく、人材、テクノロジー、リーダーシップのあり方も同時に再定義する必要があります。

今日、あらゆる分野でCX(顧客体験)が重視されるようになってきました。顧客接点におけるデジタル化は間違いなく進むでしょう。また、カスタマーサービスに就く人材を取り巻く環境においても、デジタル化が進むはずです。そこで組織のリーダーに求められるのは、CXとDX(デジタル・トランスフォーメーション)の統合であり、さらにEX(従業員体験)をそこに加える必要があります。

新型コロナウィルスによる世界的なパンデミックによって、私たちの日常生活やビジネス環境は大きく変貌し、否応なくデジタル化が進みました。その結果、新しい生活様式として定着するテクノロジーもあれば、顧客は困りごとを助けてもらう際に、親切に寄り添ってくれるヒューマンなサポートを渇望するかもしれません。同時に、ヒューマンな顧客対応をテクノロジーに置き換えることも可能なはずです。

この一見、矛盾したように思える人とテクノロジーの関係性の背景には、人々のコミュニケーション手段が劇的に変化しているという事実があります。日々のコミュニケーションにおいて、メール、SMS、ソーシャルメディア、そして絵文字が占める割合が相当増えており、私たちはヒューマンな感覚を伝えることにも、デジタルを頼って生きているわけです。

これからのチャレンジは、人々を熱中させ、夢中にさせる新しい体験を提供することにおいて、いかにテクノロジーを効果的に活用するかにあるといって間違いないと思います。

2021年4月に私たちが実施したディライト(※) 研究調査では、効果的なディライトの48%がデジタルチャネルを通じて行われたものでした。つまり、カスタマーサービスは、人かデジタルかという問題ではなく、その二者の融合によって、CXは能動的になり、予知的になり、寄り添ったものになるわけです。

日本は製造業において世界最高レベルの品質を達成してきたリーダーであり、それらによる素晴らしいCXをいくつも世界に紹介してきました。その背景にはTQM(統合的品質管理)に根差す世界でも類を見ない徹底したマネジメント体制があったわけです。そうした日本企業にとって、私は大きな3つのチャレンジがあると見ていています。

1つは、サービス経済へのパラダイムシフトが起きている中で、厳密な仕様書だけでは戦えないということです。顧客の期待とニーズは多様化し、企業が提供する製品やサービスには柔軟性が求められます。

さらに、テクノロジーと人が重なり合いながら融合する。人がテクノロジーの助けを必要とする場面もあれば、テクノロジーが人をサポートする場面もあります。CXで真の成功を手に入れるには、人とプロセスとテクノロジーの調和した融合を作り上げることにあるのですが、ある顧客の今日のニーズを満たしたとしても、同じ顧客が明日になれば全く別の期待をするかもしれない、という顧客の気まぐれ(矛盾)が生じてくることを前提にしていなければなりません。

2つ目として、顧客が求める情報をわかりやすい形で提供できる高い透明性、噓偽りのない誠実なマーケティング&セールス、顧客からの苦情や問合せを解決するカスタマーサービス担当者には十分な裁量と権限が付与され、問題解決において他部門としっかりと連携している状態をつくり出していくことが、これからの強い企業競争力になるでしょう。

最後に、顧客対応の大部分が完全にデジタル化されていく中で、そこで単純に処理をするのか、それともディライトを生み出し肯定的なクチコミを拡散させるような高度なカスタマーサービスに挑戦していくのか、どちらかを選ぶ必要が生じてきます。

戦略的カスタマーサービスを一言で言い表せば、「人」「プロセス」「テクノロジー」の統合による満足度の高いサービスを追求することで、高い利益率を達成しながら、低コストで顧客のクチコミをベースとした市場を作り出すことに尽きるでしょう。皆様が明日のビジネスリーダーとなることを切に願っております。

(※)ディライト:顧客満足を超えて、顧客に感動を与えること。また、その指標。
[ジョン・グッドマン氏ご紹介]
1200以上の調査で企業のカスタマーエクスペリエンスを評価した経験を持つ、CXの第一人者。その経歴は、1970年代にホワイトハウスの依頼で実施した、全米の企業や政府における苦情対応の実態調査に始まる。調査の結果、消費者窓口の設置とフリーダイアル導入の大きな流れを生み出すに至った。独自の視点とデータに基づく実践的なコンサルティング手法は、フォーチュン100社のうち半数近くが採用している。

40年前に日本で紹介された「グッドマンの法則」は顧客の行動原理に基づくCXの可視化を促し、マーケティング分野等で今もなお原理原則として利用されている。さらに、彼の経験とともに進化を遂げ、「CX3.0🄬」「サービスリカバリー・パラドクス」「顧客離反リスク」「顧客損失リスク」等の実践的な理論に発展している。現在は、顧客のディライトやエンゲージメントに関わる研究に携わる。

CXやカスタマーサービスについて詳しく解説した著書は6カ国語に翻訳されており、日本の読者は『顧客体験の教科書』『デジタル時代のカスタマーサービス戦略』を参照されたい。

ジョン・グッドマン

ジョン・グッドマン

1200以上の調査で企業のカスタマーエクスペリエンスを評価した経験を持つ、CXの第一人者。その経歴は、1970年代にホワイトハウスの依頼で実施した、全米の企業や政府における苦情対応の実態調査に始まる。調査の結果、消費者窓口の設置とフリーダイアル導入の大きな流れを生み出すに至った。独自の視点とデータに基づく実践的なコンサルティング手法は、フォーチュン100社のうち半数近くが採用している。

40年前に日本で紹介された「グッドマンの法則」は顧客の行動原理に基づくCXの可視化を促し、マーケティング分野等で今もなお原理原則として利用されている。さらに、彼の経験とともに進化を遂げ、「CX3.0🄬」「サービスリカバリー・パラドクス」「顧客離反リスク」「顧客損失リスク」等の実践的な理論に発展している。現在は、顧客のディライトやエンゲージメントに関わる研究に携わる。

COECXデザインコミュニティ